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  ライフスタイルを変えるPANとUWB  (ITアナリスト 志賀竜哉氏)
2003年3月25日号

■概要

 ユビキュタス・コンピューティングとは身の回りにあるデジタル機器が、互いに通信して連携プレーをしながら私たちの生活をより豊かなものにしてくれる技術ともいえる。
 その連携プレーを支えるのがネットワークだが、さらにワイヤレスでつながることで、その価値は一段と高まる。最近注目されているUWBというワイヤレス技術は、ワイヤレスのブロードバンド化ともいわれ、PAN(パーソナルエリアネットワーク)に応用されると我々のライフスタイルには大きな変化が起こり、数年後には最も無意識に日常生活で使われる重要な技術となるとおもわれる。

■ワイヤレスとPAN

 企業がオフィス内でコンピュータやプリンタなどを結んで利用するネットワーク形態をLAN(Local Area Network)というが、その独立したLAN同士を結んでより広域なネットワークがWAN(Wide Area Network)だ。逆に狭い領域に目を移すと、個人のパソコンやプリンタ、デジカメ、携帯電話などを接続して連携プレーを行わせるネットワークをPAN(パーソナルエリアネットワーク)、広い意味ではパソコンとキーボードなどの接続もPANといえる。現時点でのテレビやビデオなどは、ほとんどの家庭ではアナログ機器であるため情報をやり取りすることは出来ないが、2003年から地上デジタル放送が始まり2010年を目指して全国のテレビもデジタル化されるし、ビデオもハードディスク方式やDVD方式が徐々に浸透していることから、将来はほとんどの家電製品はデジタル方式になる。そうすると、ほとんどの機器がネットワークでつながることになり、さらにこれらがワイヤレスになると我々のライフスタイルに大きな影響を与えることになる。

 話は変わるが10年以上前、コードレス電話機がPANの領域に登場したが、これで我々は必ずしも電話機の前で話す必要はなくなり、歩きながら話したり、別室で話したり、寝た切りおばあさんの枕元にも簡単に受話器を持っていけるようになった。つまり電話機の周りを人が動いていた状況から、人の周りに電話機が動き回る状況を作り、電話機の置き場所も変わっていった。さらに携帯電話はこういったライフスタイルの変化もっと推し進めたばかりか、有線の固定電話機を駆逐し始めるなど、産業の興亡にまで影響を及ぼしている。

 ワイヤレスの判り易い利点にケーブルの煩わしさからの解放があるが、改めて述べるほどもないが、テレビとビデオをつなぐだけでも3本のケーブルが必要だ。さらにBSやCSとつないだり、ホームシアターなど取り付けた日にはテレビの後ろ側はほとんど“雑木林”、埃はたまるし掃除はしにくいし、一度外れたらどうつないでいいか分からなくなる。これ以上パソコンやプリンタなどと連携プレーするにもケーブルはもはや限界。そこでワイヤレスだ。これまでのPANのワイヤレス接続技術はここ数年Bluetoothが本命とされてきた。その伝送速度は1Mbpsで、はじめは高速ワイヤレス技術ともてはやされたが、インターネットがブロードバンド化され動画や音声が一般化するとだんだん見劣りしてきたし、今後ハイビジョン映像などもワイヤレスで簡単にやり取りする需要が出てくると少々心細い。

■UWBとは

 そこで、PANの決定版として登場したのがUWB(Ultra Wide Band)。マイクロ波帯(3GHz〜30GHz)からミリ波帯(30GHz〜)にいたる幅広い帯域を利用するまさにワイヤレスのブロードバンドだ。UWBの特徴をまとめると、Bluetoothに比べ100倍の伝送速度、消費電力が少ないこと、干渉に強いことの3点だ。さらに、数センチメートル単位で距離が測れたり、正確に位置の特定、精密なレーダーの機能も持っている。
 UWBは1960年ごろから米国が軍事目的に研究を行ってきた。DARPA(Defense Advanced Research Projects Agency;米国防総省の研究・開発部門「高等研究計画局」)の資料によると、もともと電話の盗聴を避けるために研究されていたものが、精密なレーダーに使えるようになり、壁の内側に隠れた敵の姿を現すなど、市街戦に威力を発揮することが認められ、今回の米国とイラクとの戦争にも応用されている可能性が高い。この技術を米国のFCC(連邦通信委員会)が2002年2月に商業利用を認可したことから、UWBがPANに生かされる道筋が付いてきた。低電力でも数Kmの伝送が可能だが、余りにも幅広い帯域を使うため他の無線機器に影響が出ることから、実際に利用には10mの近距離通信に抑えPANに使ったほうが物理的特性を生かせ、多くのビジネスチャンスに結びつく可能性が出てきている。

■効用と新しい用途

 このUWBだが、その応用分野はPANだけではない。まずは、先ほどの精密レーダー機能を生かして、市街戦だけではなく、地震、テロなどによる建物の崩落時に被災者を見つけたり、医療分野では超音波装置よりも正確な内臓の検査や胎児の撮影や、距離が測れるため自動車同士の衝突防止装置や衝突時のエアバッグが膨らむタイミングを正確にコントロールすること、同時に車同士の高速通信もできるためITS(高度交通システム)への応用が期待されている。高速走行中の車同士が通信できるということは、個々の車のコンピュータがルーターの役割をさせると、そこにインターネットの世界ができることになり、わざわざ3Gのような高額な携帯電話がなくとも走行中の車中で電話や高速インターネットが可能になるかもしれない。また、スーパーマーケットがレジの替わりに無線タグを使うようになると高速性を生かしたUWBが無線として使われる可能性が高い。

■ライフスタイル変化の総仕上げ

 PANに話を戻そう。家庭のデジタル機器類が無線でつながるとどういったメリットがあるだろうか?1つは「サービスと端末のモビリティ」だ。テレビ番組をデバイスの別なく携帯電話やPDA、ノートPCに飛ばして楽しんだりでき、インターネットはパソコンでしか操作できなかったが、その画面を居間のテレビから見れるようになる。その意義は、テレビ番組はテレビの前に行かなければみれなかったが、最寄のデバイスからみれるようになり、前で述べた、電話がワイヤレスになったおかげで電話と人間の関係が変わったのと似ている。そうなると、パソコンとテレビ、オーディオ製品の概念も変わらざるを得ないであろう。パソコンもテレビもホームサーバーのようなメディアセンターに集約され、それをTPOにあわせたデバイスでみるような生活になるかもしれない。もう1つの効用として、このようなパソコンやAV機器ばかりでなく、あらゆる家電製品、光熱機器もPANでつながったとしよう。冷蔵庫の中身をPAN経由で携帯端末からチェックするなどというのは朝飯前で、ライフスタイルを変えるほどの大げさなものではないが、身近なところでは、出勤前の朝、家を出てカギを締めて歩き出してから、「あ、コタツのスイッチ消したっけ、ガスは消したよな」などと不安になることがあるが、10m以内に戻ってくればUWBで外部から手元の携帯端末でガスやコタツの状況が確認できるというわけだ。
 UWBの応用は米国が先行し、日本では2002年秋から総務省が音頭をとって民間との共同研究をスタートさせており、標準化、規制が整備されるのに3年から5年かかるとみられる。UWBによるPANの展開はおそらくワイヤレスで私たちのライフスタイルが変わる総仕上げ段階になるだろう。


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