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エスニック市場へ照準 重要な市場ではあるが、通信事業者の力の入れ方は十分であろうか?
2003年5月15日号
2003年4月23日Oftel(英国電気通信庁)は、英国国内の低所得者層のうち、通信のヘビーユーザについてその利用事情の調査結果を発表した。この調査の主目的は、具体的に民族性に関連するあらゆる問題を明確にする」ことであった(おそらくOftelは、エスニック・グループのうち高所得者層はイギリス文化の主流に十分同化されており、別枠で調査される必要はないと考えているのであろう)。Oftelはかねてからこうした調査を行い、公表することを目指していたと思われるが、Oftelが通信の利用事情と「民族性」に関する調査として実際に発表したのは、これが初めてである。
イギリスにおけるエスニック市場は、だんだんと注目されるようになってきたが、以前は無視されていたものだった。最近設立された“Race for Opportunity”と名づけられた組織は、上部団体である“Business in the Community”の傘下に作られたものであるが、現在すでに180のメンバー企業が参加している。そこにはCadbury(菓子、食品、飲料)やLloydsTSB(銀行、消費者金融)、McDonaldsやJ Sainsbury(スーパーマーケット)といった企業が含まれている。
通信業界について言えば、ケーブル事業者はBTに比べ、かなり早期にエスニック市場への販売やサービスの重要性を把握していた。なぜならエスニック・グループの割合が高い地域にケーブルを敷設していたためである。ケーブル事業者はエスニック市場に焦点をしぼったテレビのチャンネルやケーブル限定の「ラジオ」局を作った。それは特にインド、バングラデシュ、パキスタン出身の人向けであった。しかしながら、この2年間、BTもケーブル会社に触発されてエスニック市場に力を入れてきている。
とはいうものの、エスニック市場における通信で最も成功しているのは、Alpha、OneTel、Swiftcall、World Telecomなどといったプリペイド・カード事業者(しばしば“リモート・メモリー・プリペイド・コーリング・カード”と呼ばれる)である。(BTは同事業を行っていない。)英国の多様なエスニック・グループ向けに焦点を絞った商品やチャネル、販売促進は、もともとこれら事業者が考え出したのである。以下、Oftelの報告書からの主なポイントを挙げていく中でそれが分かる。
Oftelの報告書は英国の様々な地域を対象としている。したがって「低所得」とはそれぞれの地域での所得に基づいて割出されたものであり、英国全体としてみたものではない。Oftelは「実際のところ、回答者の傾向として、最低所得者層からが多く、またパートタイムの手作業労働者や失業者が多かった」と報告している。固定、移動体、インターネットサービスのユーザについては、トルコ、バングラデシュ、中国、アフリカ・カリブ、亡命希望者(2003年英国に約11万人入国)、そして白人系の英国人など、いくつかのエスニック・グループから調査された。
Oftelの調査結果の主な点は以下のとおりである:
* 電話はどのグループにとっても最重要なものとして位置付けられた;実際ほとんどの人が「必須」であると答え、ガスや電気と同様に重要であるとされた
* 通信は他の公益費や食費、衣料費とならんで、家計費の主要項目のひとつであった。一家庭の可処分所得に占める通信費の割合は2〜50%であると推定され、この数値のばらつきは全てのエスニック・グループに共通すると見られる
* 費用として、重要度順に挙げられた主要項目は、公益費、食費、家賃、地方税、固定通信費、移動体通信費、次に衣料費であった。通信費は上位にランクされていた
* 亡命希望者を別として、回答者のほとんどは固定電話を家庭に設置しており、また固定電話を持つ家庭の多くは移動体電話も持っていた。インターネット接続を家庭で行うところはごくわずかであった
* 固定電話を持つことは非常に重視されていた。固定電話は通常、移動体電話や公衆電話に比べて安いという認識からであり、また移動体電話よりも質が高いと考えられていた
* 固定電話を家庭で持っていない人のうち、かなりの割合の人が保有を希望していたが、接続料金が高いこととコスト管理ができるかどうかという不安から思いとどまっていた。しかしそうした人々は移動帯電話を持っているため、安全性や社会との接触が途絶えるという懸念はほとんど見うけられなかった。
* 亡命希望者は例外であるが、移動体電話は固定電話の代替というよりも、むしろ「予備」として使われる傾向があった。移動体電話は緊急用に持つことが重要視され、また若年層の回答者では、社交の道具としてより受容されていた
* 公衆電話は亡命希望者から相当恒常的に利用されていたが、白人グループではその程度が少なかった。亡命希望者は、移動体電話よりも主に公衆電話から(プリペイドのコーリングカードを使って)国際電話をかけた。他のエスニック・グループはほとんど公衆電話を利用しなかった。
* インターネットについての認識と利用は民族性ではなく、年齢や収入に関係していた。年齢は絶対的な差別化因子であり、若年層では比較的頻繁にインターネットを利用し、またインターネットを家庭に引くことへの希望も高齢者より高かった。一方高齢者の回答者ではインターネットに対する認識も理解も限られており、インターネットは子供のものであると考えていた。
* インターネットについて唯一民族性が関わってくる側面は、プロバイダを探す際や、費用と設置について必要なことを理解する(これはインターネットに限ったことではなく常に存在する問題である)上での言葉の問題だけであった
* 通信費月額の平均にはかなり幅があり、15〜100ポンド(日本円でおよそ3,000〜20,000円)であった。これは家計の月間収入(大半の家庭は800ポンド−16万円−以下である)のうち大きな割合である
* 白人系以外のグループの方が相当多く国際電話をかけており、その相手国は様々で、またほとんどが各家庭の主要電話会社よりもコーリング・カードを多様している。亡命希望者はこうしたカードを公衆電話で使い、他のグループは自宅の固定電話から利用していた。
* コーリング・カード(プリペイド・リモート・メモリー・コーリング・カードのこと)が好まれる主な理由は、慣れ親しんでいることとコストであった。回答者は大体が友人や家族からコーリング・カードのことを聞き、他の方法に比べて安いと説明され、また使い方を教わった結果としてコーリング・カードを使っていた
(注:プリペイド・リモート・メモリー・コーリング・カードの事業者は歩合制のみのアルバイト営業員(例えば、本業を終えた後夕方だけ販売する職員)を使って「口コミ」ルートを確立する傾向にある。プリペイド・コーリング・カードの中には固定電話同様、移動体電話から利用できるものもある。)
* 白人系以外のグループはすべて、入手できる様々な種類のプリペイド・コーリング・カードについてよく知っており、接続にかかる時間や料金、回線の質をいくつか試した上で、好みのブランドをひとつまたは複数持っていた
(亡命希望者グループを除く)全てのグループを通じて、固定電話事業者にとって最も重要な条件は評判であるとされた。また、通信事業者を選択し利用する時には料金よりも品質を重んずるのが、ごく一般的な見解であった。ただし、亡命希望者だけは例外で、このグループでは事業者を選択し利用する際の主な要件として、ほとんどが料金を挙げた。
Oftelの報告書では、その地域の大多数とは違う民族的背景を持つ人々が多く住んでいる国・地域ではどこでも、そうした少数派向けに的を絞った製品や販売ルート、販売促進が必要であると指摘している。さらに、こうしたグループは通信の利用度は平均以上であり、またサービス(つまり、特に国際電話や、場合によっては移動体通信発着の国際電話を含む移動体電話でのサービス)に対する料金を平均以上に支払うユーザでもある。
しかし、このエスニック事情は果たして国内でのマーケティング以外に、他国でのマーケティングのための参考となるのだろうか? あると見るが、確信を持ってそう言うには時期尚早であろう。とはいえ、スウェーデンのTele2の事業展開がひとつの好例と言えるかもしれない。
Tele2は2002年11月、同社がノルウェーで持っていた3Gのライセンスを返還し、また2003年4月にはスウェーデンでの3Gネットワークの導入を18ヶ月遅らせることを取り決めた(同社は小国のルクセンブルグでは4月30日に3Gのサービスを開始し、またロシアではGSMネットワークを投入し続けてはいるが)。
しかし、こうした3Gの問題や市場チャンスがあるにもかかわらず、2003年2月 Tele2は英国の有力プリペイド・リモート・メモリー・コーリング・カード事業者であるAlphaを9100万ドル(約109億円)の現金で買収した。それはAlphaのサービスを販売し、Tele2の様々なヨーロッパでの事業に生かす目的であった。(Alphaの2002年の売上は約300億円であり、月々およそ125万枚のカードを英国全土六万店を通じて販売している。)
Tele2はエスニック市場へのサービスを非常に重要なものと位置付けていることは明らかである。また、他の事業者、特にTele2のような他の「新しい事業者」(つまり元独占事業者以外の事業者)もこれに追随するものと見られる。
(C) 2003 Telecommunication Ltd.
(原文)
Targeting the Ethnic Market
An important market, but are operators giving it the attention it deserves?
On 23 April 2003, Oftel published a qualitative study of telecoms use among heavy telecoms users within low-income groups in the UK. A key objective of the research was 'identification of any issues specifically related to ethnicity'. (Presumably Oftel believes that higher-income members of Ethnic groups are sufficiently assimilated into mainstream UK culture that they need not be separately researched.) This is the first time that Oftel has published any research pertaining to telecoms use and 'ethnicity', although we believe it has been Oftel's aim for some time to undertake and publish such research.
The Ethnic market in the UK is increasingly being given the attention that it has deserved but previously not been given. A recently established organisation titled Race for Opportunity, established under the umbrella organisation Business in the Community, already has 180 members, including Cadbury (confectionary, food and soft drinks), LloydsTSB (banking and retail finance), McDonalds and J Sainsbury (supermarkets).
In telecoms, the cable companies were much quicker to understand the significance of ethnic marketing and services than BT, as they cabled areas with high percentages of ethnic groups. Targeted television channels and just-for-cable 'radio' stations were soon developed, especially targeting people from India, Bangladesh and Pakistan. However, for the last two years, BT, provoked into doing so by the cable companies, has also been targeting ethnic markets.
The greatest ethnic marketing accolade in telecoms, however, goes to the prepaid card operators (often referred to as 'remote memory prepaid calling cards'), such as Alpha, OneTel, Swiftcall and World Telecom. (BT does not operate in this market). From the outset, these operators have devised targeted products, channels and promotions for the many diverse ethnic groups in the UK, as will be demonstrated by the key findings of Oftel's report which follows.
Oftel's report covered various regions of the UK, and so 'low income' was defined as being relative to that geographic region, not to the UK as a whole. Oftel reports that 'In practice respondents tended to be from the lowest income groups and were largely in part-time manual labour or unemployed'. Users of fixed, mobile and Internet services were sought from a number of ethnic groups, these being Turkish, Bangladeshi, Chinese, Afro-Caribbean, Asylum Seekers (about 110,000 entered the UK in 2003); and White British.
Some of the key findings of Oftel's research were:
* telephony was of high important for all groups; indeed most stated it was 'essential' and was of equal importance to gas and electricity
* telecommunications was a major part of the household's expenditure, along with other utilities, food and clothing. Estimates of expenditure on telecoms as a proportion of the household's disposable income ranged from 2% cent to 50%, the variations being similar across all ethnic groups
* the main stated areas of expenditure (in order of magnitude) were utilities, food, rent, council tax, fixed telephony, mobile telephony, and then clothes - so telecoms was high on the list
* apart from the asylum seekers, most respondents had a fixed line at home, and many households with a fixed line also had a mobile. Only a few had Internet access at home
* having a fixed line was highly valued, from the understanding that fixed lines typically cost less than mobiles and payphones, and were considered better quality than mobiles
* a significant proportion of those without fixed lines at home aspired to having one, but felt constrained by access charges and the ability to control costs. Few however expressed concerns about safety or exclusion from social contact, because they owned a mobile phone
* with the exception of the asylum seekers, mobiles tended to be a 'back up' rather than a substitute for fixed lines. Mobiles were seen as important to have for emergencies and among younger respondents were more accepted as a social aide
* payphones were used fairly regularly by asylum seekers and to a lesser extent by the white groups, mainly in the absence of mobiles for instance credit/battery low. Asylum seekers primarily used payphones, rather than their mobiles, for international calls (using prepaid calling cards). The other ethnic groups rarely used payphones
* awareness and use of the Internet had no relation to ethnicity, but rather age and income. Age was a definite discriminator, young persons using it relatively frequently and expressing greater desires to have Internet at home, whilst older respondents had limited awareness/knowledge and felt the Internet was for their children
* most considered the Internet a luxury, and income was a barrier to accessing the necessary hardware. This was most prevalent among asylum seekers, although this group were the most successful at seeking alternative public access points including libraries, colleges and Internet cafe's
* the only aspect of Internet that related to ethnicity was in terms of language barriers to finding providers and understanding costs and set-up requirements (which was a recurring issue not unique to Internet)
* average monthly telecoms expenditure varied considerably, ranging from around Stg.15 to over Stg.100 (approximately JPY 3,000 to JPY 20,000) comprising a significant proportion of monthly household income (which for the majority of households was less than Stg.800 - JPY 160,000)
* the non-white groups made significantly more international calls, to a wider variety of destinations, and mostly used calling cards rather than their main home supplier. Asylum seekers used these cards in payphones and the other groups from their fixed phone at home
* familiarity and cost were the main reasons for favouring calling cards (that is, prepaid remote memory calling cards), generally a result of advice from friends and family who had introduced the respondent to the method, explained that it was cheaper than other methods, and explained how to use it. (NB: Prepaid remote memory calling card operators tend to establish 'word of mouth' channels with part-time commission-only 'salespeople' - for instance selling in the evenings after their main job. Some prepaid calling cards can be used via mobile phones as well as fixed lines, although the 'access' mobile call is charged for by the mobile operator)
* some respondents kept their calls short because of the high costs, while others would call until the credit on the card expired, giving little thought to the length or cost of the call. The attraction of calling cards was their ease of use and the ability to control costs without the worry of a surprise bill at the end
* all non-white groups had developed a good knowledge of the different types of prepaid calling card available and had developed a brand loyalty to one or more card providers based on some attempt to assess connection times, price, and line quality
* there was limited awareness and use of calling shops, which were generally associated with specific ethnic communities
* the main complaint from non-white respondents was the conflict between the cheap call rate after 18:00 and international time zones. Due to the inconvenience of this, mostly their international calls were made at peak rates before 18:00
* most respondents would avoid calling abroad to mobile phones because of price and difficulties with connection and signal loss. Again the exception was asylum seekers whose overseas families often used mobiles as their main or only means of contact
* across all groups, about half of respondents currently felt constrained by price and expressed a desire to make greater use of telecoms services. However, this appeared to be a factor of their income levels rather than not getting the cheapest deal for their needs, as most respondents considered their current telephony provision offered them good value for money
reputation was considered the most important attribute of fixed line suppliers across all groups (the exception being asylum seekers). The almost universal view was to value quality over price when choosing and using telecoms suppliers. The exception was asylum seekers who almost universally stated price as the main criteria on which they selected and used suppliers.
Oftel's report suggests that in any country or region where there are numbers of people from a different ethnic background to the majority, targeted products, channels and promotions are needed to address these minorities. Furthermore, these groups tend to be higher than average users of telecoms and users of higher than average cost services (that is, international in particular, and in some cases mobile including international calls to and/or from mobiles).
But does any of the above have significance beyond domestic marketing issues within a few countries? We believe it does - but it is probably too early to say with any conviction. However, one key indication might be that of Tele2 of Sweden.
In November 2002, Tele2 handed back its Norwegian 3G licence, and in April 2003 negotiated an 18-month delay in rolling-out its 3G network in Sweden (although Tele2 did launch 3G service in tiny Luxembourg on 30 April and continues to rollout GSM networks in Russia).
Yet, despite these 3G issues and opportunities, in February 2003 Tele2 bought the leading UK prepaid remote memory calling card operator, Alpha, for $91m in cash (around JPY 18 billion), in order rollout Alpha's services and successes in Tele2's various European operations. (Alpha's 2002 turnover was around JPY 30 billion, with sales of around 1.25 million cards per month in 60,000 outlets throughout the UK.)
Clearly Tele2 views the ability to serve the Ethnic market as very important - and we expect other operators to follow, especially other 'alternative operators' (that is, not ex-monopoly operators) like Tele2.
(C) 2003 Telecommunication Ltd.
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